海藻類の回収及び活用事業
中海の沿岸にはオゴノリ類を主体とした藻場が広がっています。オゴノリ類は初夏から増え始めて秋には枯死した藻体が岸に打ち上げられる様子が観察でき、湖底では枯死して堆積したオゴノリ類がアサリなどの底生生物の斃死をもたらすことが報告されています。
中海では昭和30年代頃まで海藻類は刈り取られて肥料として利用されていましたが、高度経済成長期に化学肥料の普及に伴って藻刈りが行われなくなりました。
近年、NPO法人らの活動によって藻刈りが再び行われるようになり、地域資源の循環や環境教育の点で注目を集めています。
海藻類を刈り取ることは水中の生態系を大きく撹乱させることになりますが、藻刈りが中海の生態系にプラスに作用しているのかマイナスに作用しているのかについては今まで明らかになってはいませんでした。
そこで本研究では、野外調査により海藻類の存在が生物群集にどのような影響を及ぼしているかを検討するための基礎的な知見を集めることを目的としています。
中海の江島港の水深が2.5m程度の場所を4ヶ所選び、2017年7月から11月まで毎月1回程度の頻度でサンプリングを実施しました。
7月の時点でオゴノリ類が生育している場所の堆積物には、底生生物が全くいませんでしたが、その代わり、アサリ、ヒメシラトリ、オオノガイなどの死殻が多数含まれていました。
また、実体顕微鏡の観察から、オゴノリ類にホトトギスガイの付着が多数見られると懸濁堆積物量が顕著に高くなることが分かり、オゴノリ類を生息基盤とする生物として10~15の種類数が確認されました。個体数や出現頻度が多かったのは、ホトトギスガイ、タカノケフサイソガニ、ワレカラ科でした。
海藻類の刈り取りは、水中から陸上へ栄養塩類を再利用するという物質循環の点で効果が期待されるものの、中海全体の生物量や生物多様性にどの程度の影響を及ぼしているかは未だにわかっていません。
海藻類の存在が底生生物群集へ及ぼす影響を調べ、海藻類の刈り取りの最適な時期や頻度を提示することができれば、アサリなどの有用水産種の生息場所管理という点からも海藻類回収の意義を議論できると考えています。
中海を例とした汽水域における生態系サービスの持続的利用のあり方について提言できるように調査および研究を継続しています。
この事業は、下記の視点でSDGsを実践しています。